第45話

「ハァっ…、ん、ん、茉里っ」



意識を取り戻した時、荒い息の店長は、私の身体を貪るように愛撫していた。



いつの間にか寝かされていた私の瞳は、天井を一点に見つめていた。



荒い息、濁った瞳。



アア、キタナイ……



軋む心と反して、私の身体は一切の強ばりを解いていて。


お母さんに”教育”された身体は、目の前の男に応じようと、赤く色付く。



ーーー奥底で悲鳴を上げる”私”


ーーー身体で受け入れる”ワタシ”



「っ、そろそろだな。」



ーーー本当の”わたし”は、どっち?



男が私の秘部に、自身をあてがった時、


『茉里ちゃん!?』『・・・だ、』


志保さんの叫ぶような呼び声と、男の低い声。



「あいつ、来ないっつったのに!?」


店長が意味深な言葉を吐くのをただ、見上げていた。




キイィィ――……




すぐに開けられた扉は静かに開き、


「ヒッ、」


扉から姿を現した【狼】に、目の前の彼は小さく悲鳴を漏らす。



彼の茶色がかった瞳は昂った感情のせいなのか、瞳孔は開き、ギラギラと光を放っている様に見えた。



「まっ、茉里!」



彼の背後から部屋に入って来た志保さんは、顔色を真っ青にして私へと駆け寄る。



「どいてよ!」



呆然と田島さんに恐怖の目を向けている店長を押しのけ、私の身体を抱き起こした志保さんは、


「ごめんねっ。ごめんなさい。」


何故か涙し私の身体を抱きしめる。



「たっ、田島さん、これはっ、」



店長の焦る声に返答は無く、志保さんによって覆われていた私の視界に、黒い上着が出現した。



「着せとけ。」



それだけを志保さんに呟いた彼は、私に目線を合わせた。



吸い込まれるような怒りの色は、私の意識を覚醒させる。



「た…じま、さ?」



名前を読んだ私に彼は、


「ッッ、」


とても綺麗に、微笑んだ。



そしてすぐさま立ち上がり、店長の首に腕をかけて非常口から出て行ってしまった彼が戻って来た時。



私が店長の姿を、見る事は、二度となかった。

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