第43話
「いい加減にしていただけませんか?」
私の声音には呆れ。
なんでも色恋沙汰に結びつけるこの人に心底呆れた結果だった。
そんな私に店長は不快感を顕にする。
私の方が不快だと言ってやりたいけれど、彼が醸し出す雰囲気が段々、怪しいものに変わっているのが見て取れ、私はこれ以上刺激をしないように口を噤むしかなかった。
もうすぐ田島さんが来てくれる。
目の前の彼が私の全身を舐め回すように視線を這わせたのを感じ、私の中に焦りが生まれた。
「彼氏、いるの?」
彼の第一声に、小さくため息が漏れる。
「プライベートのことですので。」
「ふーん。」
私の回答が気に入らないのか、彼は侮蔑の視線を投げかけてくる。
「いないんでしょ?」
「お答えする義務はないですよね?」
断った筈なのに更に踏み込んできた彼の表情が艷を含み、独特の雰囲気に唾を飲んだ。
この雰囲気は、何度も見てきた。
軋むベッド。
部屋に響く水音。
罵声。
道具の様に扱われた日々が脳裏をよぎり、私の背中を汗が伝う。
震える手をポケットに滑らせ、携帯を出そうとした。
けれど、肝心の探し物は見当たらず。
玄関を出る時、靴を履くために棚の上に一度置いたことを思い出す。
連絡手段が無い今、田島さんが早く来る事を祈るしか無かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます