第43話

「いい加減にしていただけませんか?」



私の声音には呆れ。


なんでも色恋沙汰に結びつけるこの人に心底呆れた結果だった。



そんな私に店長は不快感を顕にする。



私の方が不快だと言ってやりたいけれど、彼が醸し出す雰囲気が段々、怪しいものに変わっているのが見て取れ、私はこれ以上刺激をしないように口を噤むしかなかった。



もうすぐ田島さんが来てくれる。


目の前の彼が私の全身を舐め回すように視線を這わせたのを感じ、私の中に焦りが生まれた。



「彼氏、いるの?」



彼の第一声に、小さくため息が漏れる。



「プライベートのことですので。」


「ふーん。」



私の回答が気に入らないのか、彼は侮蔑の視線を投げかけてくる。



「いないんでしょ?」


「お答えする義務はないですよね?」



断った筈なのに更に踏み込んできた彼の表情が艷を含み、独特の雰囲気に唾を飲んだ。



この雰囲気は、何度も見てきた。



軋むベッド。


部屋に響く水音。


罵声。



道具の様に扱われた日々が脳裏をよぎり、私の背中を汗が伝う。



震える手をポケットに滑らせ、携帯を出そうとした。


けれど、肝心の探し物は見当たらず。



玄関を出る時、靴を履くために棚の上に一度置いたことを思い出す。



連絡手段が無い今、田島さんが早く来る事を祈るしか無かった。

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