第40話

弓さんが【悪女】だと決めつけていた俺は、本物の【悪女】の手伝いをしてしまった。



馬鹿な俺は、彼女の信頼を得るどころか、左手を失わせてしまったんだ。



運転しながら、自嘲の笑みを浮かべた。



彼女は未だに、目すら合わせてはくれない。



どんな組員だろうが笑顔で接し、若姐としてこの事務所を支えている彼女が。


俺と悟には目すら向けないんだ。



無視はしない。


だけど、俺たちを”見ようとはしない”



壮士さんの言っていた駒。



それに自らなろうと決めたのは、彼女が密人に左手で触れていたのを、見た時。



俺の”愚かさ”の代償を知った時、駒になることを決めた。


それは悟も同じだったようで。



卒業間近に進路を打ち明け合った時、お互い苦笑いを向けあったっけ。




しかし、


『よろしくね、ヒヨコ。』


他の新入りたちにだけ向けられた瞳に、情けなくも泣きそうになった。




ーーーー、




あっという間に付いた店はまだ開店時間ではないからか、異様な静けさを誇っていた。



店の前に密人のバイクがあるのを見ながら、扉を開けて中に入る。


見回した店内は静かで。



人の気配を感じない事に首を傾げる。




店内を進み、事務所の扉を開ければ、



「ッッ、」



スーツの上着に包まれた、彼女。



その目は闇色に染まっていて、何故か姐さんを思い出した。



乱れた髪、やや赤い頬。



上着で見えないが恐らく、服も乱れているんだろう。



そんな彼女の隣で背中をすり続ける志保は、怖い顔をしたままただ一点、事務所から繋がる外へと非常口へと注がれていた。

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