第35話

「!?茉里ちゃんっ、」



なんとか家に帰った私に駆け寄った志保さんは、ギリリとその美しい唇を噛んだ。



そんな彼女の唇に、手を添える。



「大丈夫です。」


「でもっ、こんな幼稚なっ、」



怒り狂う彼女に苦笑いが漏れる。


彼女なら、店で彼女たちを締め上げてしまうだろう。


しかしそうはならない。



だって、


「私が、決着つけますから。」


ニヤリと、口角を上げた。



そんな私に目を見開いた彼女は小さく溜息を落とす。



「全く、気が強いんだから。」


「それだけが取り柄ですから。」



志保さんと、笑い合う。



自分の気の強さにはもう、気付いている。



だけどこれは神様がくれた、”ギフト”



私が母の【闇】に染まらなかったのは、この気の強さのおかげだから。




『漆黒の目に、その容姿、そして私に”堕ちない”所。”あの女”にそっくりぃ。』



母さんが漏らした、この言葉。




この町に来ると何故だか何度も思い出す。




お父さんがなぜこの町に私を”捨てた”のか。



その理由は、



『お前は色々と、問題がある様だな。』



この男に出会ったことで、これから知っていくこととなる。



両親の元へ生まれた自分を呪ったのも、



『悪い様にはしない。』



彼に出逢ったから。




密人。



私の大切な人。




この時の私は、彼を嫌な奴だとしか思っていなかったんだけどね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る