第34話

店長の忌々しそうな視線はムカついたけど、それに反して厨房の人たちはとてもいい人たちだった。



料理担当の木村さん(きむら)、六条さん(ろくじょう)


フルーツ担当の木城さん(きじょう)



たまに厨房にカクテルに使うフルーツを取りに来るバーテンダーの厚木(あつぎ)さん。



入れ替わり、立ち替わり、給仕をしている黒服のみなさんもとてもよくしてくれた。



そして何より、志保さんが。



「茉里ちゃん、お客さんにチョコレート貰ったの。食べる?超高級!」


「茉里ちゃん」


「茉里ちゃん?」



とても、よくしてくれたから。



死ぬ気でいた私が、今一生懸命働いているのは、なんだかおかしい。



でも多分これが、志保さんの狙い。


だって一生懸命働いている内に私は、


”杉原茉里”としての人生を、


確実に一歩ずつ歩もうとしていたから。




だけど・・・、



ガンっ!!「ッッ、」



「あんたねぇ、キモいよ?ちょっと顔がいいからってさ、小汚い家無しのくせに。」




彼女たち、他の従業員の目には、私が男たちと志保さんに”チヤホヤ”されてると映ったらしい。



「・・・・。」


「何?その反抗的な目。」


バギッ!!



「っ、う…、く…、」



睨みあげた私の胸元に、デッキブラシがのめり込む。



ガツッ!!


「っ、っ…、」


顔に、もう一人の拳が入る。




「死ぬか出て行くか、どっちにする?」




嘲笑う彼女たちは、醜い。

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