第30話

ベランダの柵の上に立つと広い柵の安定感とは対照的に、3階で吹き荒れる風に身体が揺れる。



立ち上がり、月を背にした私の姿を、お母さんはベランダと部屋の境界線で手に顎を載せてしゃがんで見つめていた。



その瞳は無邪気な子供そのもので。



これから起こる事にわくわくしている。そんな感じだった。




お母さんに言う事なんて、一言も無かった。




そのまま、背後へと倒れていった私の表情は、




とても、穏やかな笑みを浮かべていた。






ドッ……!!バキバキバキッ、





衝撃と、音。



不思議と感じない痛み。



下から見つめている私の霞んだ視界には、バラの大群と月。



そして、ベランダからつまらなそうに私を見下ろす、お母さん。




そこで、私は分かったんだ。




私は、お母さんに、嬉しそうに、笑って欲しかった。



いつも”退屈”しているお母さんに、【本当の】笑顔で。



だけど私を見下ろすお母さんは、いつものように、退屈そうだった。




「あ~あ。”また”壊れちゃった。もういらな~い。」



それだけを言ったお母さんの姿が消えた頃、私の意識もブッツリと途切れた。

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