第29話

ある日、いつもの様に私の上を幾人もの男たちが通り過ぎた後。



気怠い身体を叱咤して、つまらなそうなお母さんに問いかけた。



「お母さ、ん?」


「なぁにぃ?」



気怠そうにソファーに身を沈める母は、人形の様で。


とても、私を産んだ女性には、見えなかった。



可愛らしい服に身を包んだ”少女”は、とてもつまらなそう。



きっと飽きれば、次の”暇つぶし”を私に科す。


そう確信していた。




「人が、飛び降りる風景って、綺麗だと、思わない?」


「ええ?ぐちゃぐちゃになって不細工じゃない?」



そう答える母に、首を横に振った。



「ううん。人がね?人生を終える時ってとても美しいのよ?闇に落ちて行く、空を飛んでいるような不思議な光景。

見たいと、思わない?」



「そうねぇ。んー、確かにそうかも?」



首をコテンと傾げる母は、とても、とても可愛かった。




裸の私は、笑顔のまま、ゆっくりと、立ち上がる。



体中に、汚い華が咲き誇り、刻印の様に伝う縄の後。



私は蝶などではなく、蛾だ。



「見せて、あげるよ?」



愛するお母さん。



蝶が死ぬのは、美しい。



だけど……



扉を開け、ベランダへと出た。



父の所有する敷地内のこの豪邸。



私たちがいるのは、3階。



後ろ向きに飛び降りれば、私は、


いや、”蛾”は、



ぐちゃぐちゃに、潰れてしまうことでしょう。

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