第28話

side 茉里




私の家は、とても裕福な家庭だった。



優しい父は、会社のことになればとても厳しく、業績もとても良かったと聞く。



母は……、



分からない、人だった。




幼少の頃、私は母から欲しい物があるのなら、嫌いな人間から奪えと教えられた。


小さな私に、人への優劣なんて存在するわけがない。


だから私は嫌がった。




その度に母は、そんな私の……首を……とても穏やかな笑顔で締め付けた。




軋む首は、息苦しさと、痛み。



それ以上の、【恐怖】



母から私に与えられたのは、それだけ。



母の穏やかな笑顔なんて、数え切れないほど、見ている。



だけど私にとってそれは、【恐怖】以外のなにものでもない。




それでも、私は……、


人から奪う事なんて、できなかった。




小学校を卒業する頃、友達と家で遊んでいた私に鼻を鳴らしたお母さんは、


興味を失ったように、”私”を、見なくなった。




それは中学3年間続き、ある意味平穏だったのはその時だったのかもしれない。




そして高校に上がった【私】は、


「暇つぶしの時間だよ。」


部屋に入ってきてそう笑ったお母さんによって、綺麗な身体を、失った。




私に折り重なるのは、知らない男たち。



私の上を這う舌は、誰の物?



私の中に居るのは、誰?



快楽に喘ぐ自分の身体は、段々それに適応していった。



それでも、私の心は拒否していて。




私は、【自分】を”手放す”ことにした。

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