第26話

事務所を出て廊下を歩いていると、厨房の中が少しだけ伺えた。



隅の隅、小さなスペースに見つけた、華奢な身体。




「・・・・密人?」




訝しげな武の声は、少しも聞こえなくて。



上がる紫煙と、彼女の背中。



立ち止まった俺の視界にはそれだけが目に入っていた。



そんな俺の強い視線を感じたのか、彼女がゆっくりと振り返る。



「ッッ、」



上がる心拍数に、高揚した気分。沸き上がる汗。



この現象の正体は知っていたが、どう表すのか、それだけは分からなかった。



訝しげに首を捻りながら、俺に軽く頭を下げた彼女。



そんな彼女に少しだけ頷いて、


歩を進めた。




「・・・武。」


「は。」



素早く近付いてきた武へと視線を滑らせた。



「あの女、調べてくれるか?」


「・・・仕事か?」



その質問に、少しだけ俯いた。



少しだけ間を開けた俺の口からは、ただ、


「いや、俺が彼女を”知りたい”んだ。」


彼女を助けたい、一人の男としての、頼みごとが吐き出された。




「ッッ、分かった。」



「さんきゅ。」



息を呑んだ武は、とても嬉しそうに口角を上げ、俺もそれに答える様に、口角を上げた。



”拾われた”彼女の、【闇】を知りたい。



支えてやりたい。



親友以外の女にそう感じたのは、彼女が初めてだった。

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