第21話
あの男が父親だった時期は、あまり記憶が無い。
きっと母さんと親父をこれだけ傷つけた相手を実の父親だとは思いたくなかったからだと思う。
あの男の笑顔すら俺にはもう、思い出す術は無い。
・・・思い出そうとも、思わない。
親父は母さんを愛していなかったというが、本当は違うんじゃねえかと思う。
俺と母さん、そして親父。
3人で映った1枚だけの写真。
それを財布に入れているのを知っているから。
母さんは、親父をどう思っていたんだろうか。
あの男の浮気ですぐに死へと逃げたのはやはり、親父を愛していなかったからだろうか。
自分の母親だが、親父にあんな悲しい顔をさせた母さんが、嫌いだ。
『いらっしゃいませぇ。』
トリップしていた俺の思考は、出迎えた店の女が俺の腕に手を絡めた所で遮断を余儀なくされた。
むせ返るような甘ったるい匂いが鼻に付き、気分の悪さに顔を顰めた。
「・・・触るな。」
「あっ、ひどぉい。」
吐き捨てた俺に振り払われても笑顔を張り付ける女は、俺から少しだけ距離を取って付いてくる。
振り返れば武も同様、女を腕に絡め困り顔を向けていた。
ただ道重だけが当然のように肩を抱き、一緒に歩を進めていた。
キャバクラ店内に入れば、当然の様にVIPへと促される。しかし今日は、そこへ入るつもりはない。
「報告は事務所でいい。」
「え!?それは…、」
立ち止まった俺に困り顔の店長に溜息を吐く。
「今日は新入りに教える事があってな。飲んで帰れる暇がねえ。」
「あ、承知しました!」
いつもは飲んで帰るのも仕事の内だが、今日はこのあとフェニーチェにも寄らなければいけない。
合点がいったらしい店長が事務所へと案内する後ろを付いて行った。
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