第18話

「若、若姐さん、少しお時間よろしいでしょうか?」


「無理。」「いいよー?」



俺の質問に、見事にハモった正反対の回答。



若の鋭い視線は康祐の手の上の盆へと熱心に注がれており、弓は俺に笑顔を向けていた。



「・・・新入りたち一同、挨拶に参りました。」



若は甘い物と弓がいるお陰で目すら向けないだろうから、あえてスルー。


弓へと照準を合わせて頭を下げる。



「「「よろしくお願いします!!」」」



俺の背後で新入りたちは深々と頭を下げているだろう。



「よろしくね、ヒヨコたち。」



若の返答などもちろん無く、弓の朗らかな返答だけが耳に届いた。



「て、わけで。食べよう、しょっぽい饅頭!!」


「ん。」


「・・・。」



どうやら弓も新入りより饅頭らしい。



「あ、密人も食べる?すんげーあるよ?」


「・・・いえ、俺はこれから仕事が、」


「若姐の誘いを断るなんて、偉くなったもんですねぇ?」


「・・・・。」



さっき俺に新入りの教育を押し付けた本人が、若の隣で薄ら笑いを浮かべて俺を追い込もうと画策する。



小さく溜息を漏らした俺は、


「仕事が終わったらいただきます。失礼いたします。」


そう言って、


「弓、口に入れてくれ。」


未だに俺らに目を向けない若のそんな甘い声を背後に、執務室を後にした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る