第9話
「壮士さんから許可が出てる。お前は今日非番だ。『足りない物を買いに行きなさい。』だそうだ。」
「・・・壮士さんは?」
「広子の所。」
口を開こうとした康祐を遮ったのは、弓の複雑そうな声。
「ああ、女のとこか。」
さっきまで浴びる程飲んでいたのに顔色すら変えなかった壮士さんは、その足でそのまま女の所へ行ったらしい。
壮士さんの女……、
「想像もつかねえな。」
「あのねぇ、他人事じゃないよ?しょっちゅうケンカして壮士が私に八つ当たりするんだから!」
これからアンタも犠牲者ね。
意地悪そうに顔を歪める弓に苦笑いを返した。
「あとこれ。」
「なんだ?」
康祐が俺に差し出したのは、黒いクレジットカード。
「お前の親父からだよ。なんでも買えだって。俺これ運ぶのヒヤヒヤしたぜ。」
よく見れば親父名義のカードだった。
俺は高校の時から既に、親父からは一切の経済的支援は受けていない。
これからだってダンスクラブの【ラ・フェニーチェ】はそのまま俺をオーナーとして運営していくし、新城組からも給料を貰っているからだ。
「お前んとこもデカい組だろが。」
「お前と一緒にすんな。」
カードを受け取りながらそう言った俺に白目を向けてくる康祐に苦笑いを溢した。
「隼人さん、いい父親してんじゃん。そろそろ”パパ”って呼んであげれば?」
「・・・それとこれとは別だ。」
俺の返答に吹き出した弓を前に、カードを財布にしまった。
どうせ使わねえと泣き出すからな。
黙って好意に甘える事にした。
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