第5話
「奏って、なにかがズレてる気がするわ?」
「どこがだよ?」
夫婦漫才が始まった所で、苦笑する俺の背後へやってきた武が耳元で囁く。
(総長、お時間です。)
「・・・・ああ。頭。」
ゆいかさんを甘く見つめていた頭の視線は鋭くなり、俺を射抜くように見つめる。
それだけで俺たちの中にさっきまで漂っていた緩さは全て消え、身が引き締まる。
この統率力、頭としての貫録、そしているだけで相手を圧倒するこの威圧感。
新城家の男たちはそれを自然と備えていて、親父にも、それに近いものを感じていた。
俺が目指すのは、彼らの場所だ。
「行ってまいります。」
「ああ。」
「気を付けてね?」
手を振るゆいかさんの腰を抱いて、頭が先代たちの席へと歩いて行くのを見送ると、俺の鋭い視線は白虎の面々へと向けられた。
俺が歩みを進める度、人垣が割れる。
カン…カン…カン…
ゆっくりと一歩ずつ、階段を上がる。
何気なく上がっていたこの階段の音ももう、聞くことはできないだろう。
頭が言っていた通り、俺は白虎など温かったのだと思う程の場所へと一歩踏み出すから。
これまでの”手伝い”程度では済まない世界へ。
若が、頭が……親父が、
生きている世界へ。
総長室の前、面々へと振り返り、口角を上げた。
「最期だ。楽しめ。」
ウオォォォォ――――!!
野太い歓声の中、車へと向かう為、俺の【白虎】が翻る。
そんな俺を、夏流が嬉しそうに見ているのが目に入り、口角を少しだけ上げた。
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