第3話

「若、今日はありがとうございます。」


「ん。」



弓から移り、少しだけ俺へと向けられた視線。


しかしそれは直ぐに甘さを戻して隣の猫目へと移動してしまう。



こんなこと、既になれてしまっている俺もどうかと思うが…、俺の視線はすぐさま若の隣に立っている壮士さんへと向けられた。




「頭(かしら)は?」



会長は弓の婚姻の儀後、再び夫婦で世界へと繰り出した。



そしてこの場にいるべき頭と、その片割れの蝶が不在であることに気付く。



そんな俺に口角を上げた壮士さんは、視線を背後へと向ける。




「倉庫の外にいらっしゃいますよ?」



「え?」



その言葉の意味が分からない俺に、夏流が答えた。



「父さんがいいシチュエーションを思いついたって母さんを引っ張って行ったわ?ねぇ、朔真?」


「ん。」



・・・これには流石に苦笑いを溢した俺。




頭はいつも、頭らしいっつうか。



「奏はねぇ、アホだからもうちょい待ってあげてねぇ?」



「・・・・隼人さん。」




割れた人垣から姿を現したのは親父だった。



未だに面と向かって”親父”と呼べない俺にも態度を変えずに接してくれるこの人を、後にも先にも自分の唯一の父親だと思っている。



実の父、あの男は…、



例え母さんが愛していた奴だったとしても、



父親とは、思いたくないからだ。

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