第62話
しかし小町の口から家族の話など出たことはなく、先ほどの言い草からも小町からは親兄弟への愛情などまったく感じられない。
それに、仮病とはいえ小町は療養地にいたこともあるほどの重病を患い、こうして実家から離れてこの城で暮らしているというのに、家族との面会などミルは一度も受けたことはなかった。
「とりあえず、この国は出ると決めているの。だけどそれだけ。私はもっと、世界を知る必要がある。」
そう言った小町の視線を感じて、ミルはハッと我に返る。ここでなぜ、家族のことを聞けないのだろうか?ミルは自分が不思議でたまらなかった。
だけど、小町の視線が、表情が、もう家族を語ることをしない、と言っているようで。
「そうだな。まずは城下町にでも行ってみるか。」
「ん。」
だからもう、ミルは疑問に思うことをやめた。それよりも、小町とこれから城下町へ行けるという期待が勝った、とも言えるだろう。
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「本当に、大丈夫?」
「大丈夫だ。」
「本当に、本当に、大丈夫?」
「クドイぞ、小町。」
翌日、町娘風に変装した小町は、同じく町娘に扮したミルに最終確認をしていた。
そんな2人のやりとりを傍でニコニコしながら見ているのは、メイド小町、改め、きちんとしたドレスを纏った偽小町だ。
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