第60話
「まぁ、こうして良質な偽物も用意できたのだ。行こうではないか。」
「……どこへ?」
首を傾げる小町を、一度は鼻で笑ってみせるも、ミルもその答えは知らない。
同じく首を傾げるミルを見て、小町は苦笑いを零す。
2人とも、境遇はまるで違えど、世間知らずであることは同じなのだな、と小町は思った。
「この世界での私が知っている世界なんて、とても狭い。」
ため息交じりにそう言った小町は、窓際へと歩いて行って窓枠に腰かけた。小さな鉢に入った花々が置かれているそこは、春の日差しを受けて心地が良い。
まぶしい陽の光に目を細めた小町は、"自分の知る"世界へと目を向ける。
幼少より、ビターの妻となるべく教育を受けて来た小町は、もちろんこの城の中のことはある程度把握している。
それに、父について社交界に赴いていたため、貴族の間での常識はきちんと分かっているつもりだ。
しかし、目標とするこの城からも家族からも逃れるという夢を達成した暁には、自分はそんな貴族の常識はまるで通じない世界へと放り出される。
いや、放り出されるというのはおかしい表現だろう。小町は踏み出すのだ。貴族というしがらみから抜け、普通の人、温度小町という普通の女として、ビターはもちろん、貴族とはなんの関係もない人生を歩む。
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