第57話

「で?まさかこれを置いて出かける、とか言わないよね?」



「そのまさかだ。」




ピクリとも動かないメイド服姿の小町に、ミルは当たり前だとばかりにそう言った。小町が目を見開いて驚くのは当たり前のことだろう。



目の前にある自分は、自分そっくりではあるが、おおよそ生命というものが全く感じられない。



先ほどから瞬きもしないし、手を鼻の前にかざしてみるが息をしている感じもない。



言ってみればこれは、精巧に作られたただの人形である。




それをこの部屋に置いたとしても、この部屋に誰かが入ってくれば真っ先に気付かれてしまうだろう。



見た目だけ装ったところで失敗するのは目に見えていた。




「大丈夫だ。私が傍でサポートするし、これはきちんと動き、息もする。」




その言葉に小町は首を傾げた。その目はふんだんにミルを疑っている。



「なんだその目は。しょうがない。まずは小町の性能を見せてやるとしよう。」



「この人形を小町って呼ばないで。」




目の前にあるコスプレした自分の人形を自分の名前で呼ばれるのは、小町としてもあまりいい気はしない。それに肩をいさめたミルは、小町人形に向かって微笑んだ。




それが合図であるかのように、小町人形が一つ、ゆっくりとまばたきをした。

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