第54話

「城も抜け出せないし。もし計画がうまくいってもこれじゃすぐ野垂れ死にだわ。」




深いため息を吐いた小町に、ミルはキョトンとして首を傾げた。



「抜け出せばよいではないか。」



その言葉に、小町のミルを見る目の温度が下がった。



「病弱な私がどうやって遊び歩けるっていうのよ?」




言われてみればそうだな、とミルは思った。病気でお茶会にも参加できなかった小町が外でなにやらしていれば、それは遊び歩いていると見られてもなんら不思議じゃない。



人は、自分の見たいように他者を見る。それが間違っていようがいまいが他人なのだからどうでもいいことだ。




ミルは、まだ自分がただの神であった頃、自分勝手な人間が好きだった。バカな人間はトラブルを起こしやすく、人を蔑む人間は必ず人を惑わせ、傷つける。



そして結局、そのような人間たちは正義の者たちによって断罪され、また、それが叶わなくても必ずなんらかの方法で報いを受けていた。




それは、神であるミルがもたらした天罰などではない。それはまるで天命であるかのように、彼らは必ず世界を動かすのだ。人の世界にとって悪が存在するから、世界が回っている。そう言っても過言ではないほど、人の世界に悪という存在は必要不可欠なものであった。

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