第45話

「だからこそ慎重にならなくちゃいけない。ただ彼女をつぶすだけじゃだめ。彼女には后妃になってもらわなくちゃいけないんだから。」




その言葉に、ミルはなんとも言えない感情に囚われた。その言葉はすなわち、小町がもう后妃になるつもりはないと断言していることに他ならないからだ。




二度目の運命。それもこの世界の神であるミルが味方しているにも関わらず、小町は后妃になることを初めから諦めている。



ビターを心の底で少しでも求めているのなら、再び后妃になり、ハッピーエンドを目指すのが人間の当たり前の行動であるとミルは思っていた。



しかし小町はそうしない。ビターにうんざりしたということもあると思うが、今のビターは純粋に小町のことを思っている。シュガーを排除し、小町がなにかヘマをしない限りは、ビターの腕の中でようやく幸せを掴めるというのに、である。




内心不思議だと首を傾げるミルを前にして、小町の目には確固たる強い意志が見えていた。



彼女自身も気付いていないかもしれない。それこそこの世界の神ですら気付けない領域。人の心の奥底にある恐怖という感情は、小町に同じ人生を二度経験することを捨てさせた。




ビターへの愛をもってしても、愛していた男に見捨てられ、身を焼かれた恐怖は再び彼を愛することを禁じたのだ。




小町というヒロイン。彼女はヒロインであるにも関わらず、悪役令嬢としての役割も担っている、不幸な存在なのだ。

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