第42話
小町が最も恐れているのは、ビターではなくシュガーであった。
この国随一の才女で、父はこの国の宰相であり、権力も有している。
そして彼女はビターの幼馴染。お互いの歴史の長さを比べれば、小町はシュガーに敵うはずもない。
そしてかねてよりビターのベッドを温めていた彼女の美貌は疑うべくもなく、関係が長く続いているということは、ビターとの体の相性も良いのだろう。
ただ、その関係がシュガーを后妃とすることの障害となることはもちろん、シュガーも承知しているだろう。
この時代は古臭い習慣がいまだ根強い。もちろん、小町の前世でいたあの世界のように、男女が気軽に恋愛をできるような環境を持つことは自由の多い平民でさえままならない。
この世界の貴族、特に皇帝の妻となる女には、その身の清さは絶対条件である。
シュガーの身を"穢した"のが例え皇帝であるビター本人であっても、結婚前に身を結んでしまえばシュガーの身体は清いとは言えないのだ。
それが公に露呈してしまえば、シュガーは后妃候補から落とされるだけでなく、宰相である父親の地位にも何かしらの影響があるだろう。
前々世で后妃候補にシュガーが上がらなかったのは、そういう理由があるのかもしれない。
だからこそ、小町は恐れているのだ。
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