第40話

実はミル、この世界での人間の思惑など、手に取るように分かっていた。しかしいくら神の身でありながら、自分の能力を存分に使って小町を特別扱いしているとはいえ、人々の考えや思惑など、すべてを小町に教えるのは、逆に小町の計画を妨げてしまうかもしれない。そう思っていた。



それには理由がある。人とは、感情で動く生き物である。今の小町を支えているものは、ビターへの憎悪と生への執着である。



それらの感情が薄れてしまえば、この女ならば確実にすべてを諦めてしまうことに、ミルは気付いていた。




転生を二度も繰り返し、絶望を前にひざを折った人間は、再び立ち上がるにはそれ以上の強い思いが必要である。しかし小町には、それを支える生きがいもなく、あるのは元の自分がもっていた、すでに捨ててしまった自分の身一つ。



そんなものはすでに捨ててしまったものとして、小町自身にはあまり執着は見られなかった。見られるとすれば、ビターから少しでも離れたいという思いと、もう死にたくないという恐怖のみ。



もし、この世界の人間たちの考えていることすべてを小町に囁き、計画を全て順調に進めれば恐らく、小町は成し遂げるかもしれないが、そうして楽に人生を手に入れたところで小町は、今後幸せになるだろうか?


いや、きっとそうはならないだろう。

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