第38話

無理もない。前は幸せの絶頂の中、あらぬ疑いをかけられた上弁明してもそれを信じてくれるばかりか、ビターはシュガーの言葉を信じた。そして、小町の生涯をかけて尽くしてきた事実すら蹴り飛ばし、最悪にも小町が火に侵食されその命が焼け落ちる様を、ビターは腕にシュガーを抱いて見つめていたのだ。




その時の小町の歯がゆさ、絶望、憎悪。それは神であるミルには当たり前のように伝わっていた。




当事者ではないミルでさえ、ビターを前にすると心中穏やかではないのだ。された本人であれば当然、殺したいほど憎いに違いない。




しかも"あの"ビターは前のビターではない。自分が小町にした所業も、己の愚かさ、残酷さえ自覚することなく、純粋に小町を愛しているのだ。




全てを知っている小町が、その理不尽さに嘆くのは当たり前であろう。しかしミルは小町にそんな負担を強いてまで、この強く見せかけるか弱い生き物を幸せにしたいと思っていた。




「なにか飲むか?」


「いらない。紅茶飲みすぎてお腹たっぷたぷだし。」




小町の不貞腐れたような返答に、ミルは自分が自然と笑っていることに気付いた。



初めは、自分の失敗をどうにかしたいという気持ちでこの世界に小町を引き込んだ。しかしこの元純粋性悪化女と過ごす内、友情に似た感情をこの小さき人間にもったのは気のせいではない。

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