第36話

だからこそ小町は、病気を選択した。




うつる病気ではないにしろ、今の小町の病状は自分の生活すらままならないもの。それがまさか、子を産むどころか后妃の侍女などもっての他である。



前例はあるのだ。昔、身体の弱さから后妃になれず、かといって城勤めもままならない故自領に戻り生涯を終えたという女性もいた。



この世界は二度目である小町は、もちろん彼女の存在を知っており、前例があるからこそミルの力を使ってそれに倣おうとしている。


しかし小町はまた、知っていたのだ。




身体の弱い、皇帝の寵愛を受けた后妃もまた、別の時代に存在したことを。彼女はビターの10代前の后妃であった。皇帝とは彼女が城へ入る時が初対面であったが、それがまるで運命であるかのように2人は恋に落ちたそうだ。



しかし彼女は身体が弱く、子が産めなかった。だから皇帝は、彼女を后妃にして、自分の子を産ませるため、側室を持った。




そして彼女たちが産んだ子を后妃の子として育て、次の王としたのだ。




前回の小町ならば、なにも思わなかっただろうその事例。しかしあの世界を体験し、さらに別の世界で男女平等の中生きていた今の小町には、唾棄するべき忌々しいことであった。




もちろん、皇帝との恋は抜きにしても、この事例は小町の今の状況に酷似している。

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