第34話
その中で、なぜこの娘だけが運命から大きく外れてしまったのか。ミルは内心、苦々しく思っていた。
「小町、また来る。」
「はい。楽しみにしております。」
ミルから見れば、小町の演技は完璧である。しかしそれは、自分が神であることの弊害も影響していると自覚していた。
ミルは絶対的な存在であり、物の考え方が人間とは大きく異なる。だからこそ、人の感情の機微というものが分からず、それが分かるからこそ、長い人生の暇つぶしとして人間観察を選ぶほど、人は面白いと思っていた。
ミルとしては、今の小町は本来の彼女ではない。元々純粋で無垢な上、あらゆる知識に精通し聡明である彼女は、ミルから見れば完璧な人間であった。
ビターを敬愛し、愛情を注ぎ、この人以上の人間などいないとばかりに盲目的に愛していた。
そう、"この時はもう"そうであるはずなのだ。
背を向けたビターと、小町を無機質な目で見つめているビーン。そのどちらもにか、小町は笑顔を崩さない。
誰もがため息を吐くほどの美しい笑み。ミルにはそう見えたが、現実にその笑顔には、何の感情も含まれていなかった。
しかし、振り返ったビターは小町の笑顔を見止めて嬉しそうに頬を緩める。その次の瞬間には皇帝の顔となって部屋を出て行ってしまったが、この小町の笑顔に騙されているのは一目瞭然だ。
彼もまた、ミルと同じく、小町に騙されている人間なのだ。
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