第33話
彼はこの国の皇帝であるビターの側近であり、先王よりこの国に忠誠を誓い、実際に貢献してきた忠臣の一人である。
名前を、ビーン・プレソ。ビターの側近だ。
ビーンは、その感情の灯らない無機質な目をチラリと小町に向けた。それにどんな意味があるのかは明確には分からないが、小町はその視線を、自分を疎んでいると認識している。
実際、前々世では、このビーンもまた、小町を陥れた一人であった。
処刑場、自分を見下ろすビターの軽蔑の視線。シュガーの愉悦を含んだ蔑みの視線。臣民たちの憎悪の籠った視線。そのどれもが小町を攻撃し、絶望させた。そしてこのビーンもまた、小町を心底蔑んだ視線を送ってきた一人であった。
小町はビーンの視線を堂々と受け止め、にっこりと笑って見せた。しかし扇子に隠れた唇が震えているのが、見えはせずとも神であるミルには分かっている。
取り繕い、演じ、策略を巡らせる。今の小町は前の小町からは想像もつかないほど変わっていた。
純粋無垢であった小町。ミルはことのほか、気に入っていた人間の一人だった。
かといって、ミルが何かを施すということはない。この世界で幾人かお気に入りを作り、死ぬことのない長い人生の中での楽しみを、彼らを見ることで作っていたにすぎないのだ。
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