第32話
どれだけ関係を隠そうとも、噂という形でさえシュガーとビターの関係が漏れることは当たり前のことである。
皇帝が動けば、すべてが動く。秘密裡にとはいえ、ビターは自分の行動を他者に知られずに済むことは不可能なのである。
病気を持ち、子の出産に耐えきれるかも分からない、皇帝の寵愛を受けている小町。
寵愛は受けておらずとも、健康でありビターが好んで褥を共にしているシュガー。
その両者を比べた場合、どちらが将来の国母に近いかと言われれば当然、健康に子が産めそうなシュガーである。
国の事情を前にすれば、皇帝の寵愛など二の次である。それはもちろん、国の象徴であるビターも例外はない。
皇帝の心など、重要ではない。すべては国のため。皇帝とは国のためならば、進んで自分の心も捧げる。それを考えれば、皇帝とは、なんと孤独な存在であるのか。
しかし同情はすれど、小町はそんなビターの立場を利用することに躊躇いなどみせない。なんせ、自分の命がかかっているのだ。手段なんて選んでいられない。
「陛下、そろそろ、お時間です。」
「む。もうそんな時間か?」
ビターの耳元で囁いた男は、いつもビターの影として付き従っている男だ。
銀色の髪に、感情の色の宿ることのない整った顔は、絶世の美形であるビターの隣に立っていても違和感などあるはずもない。
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