第26話
小町の微笑みに、ビターの胸はときめいた。本人も苦笑いするほど、ベタ惚れである。
ビターと小町は、子供の頃からの付き合いである。
次期皇帝と、それに近づけるだけの地位を持った貴族の娘。社交界や食事会で会う機会が多いのも当たり前のことだった。
それに、温度家はコーヒー王国にとって無視できないほどの名家であり、小町は生まれながらにして将来ビターの妻の候補となることが決まっていた。
それは本人たちが知らない事実であるが、そんな約束などどうでもいいとばかりにお互い惹かれ合っていたのは事実である。
「陛下も食べられますか?」
自然とビターに着席するように促した小町が、ミルの差し出したティーポットを手に取る。
それを目にしてビターは機嫌よく目を細めた。
ビターは立場上、他の后妃候補とも茶を飲んで歓談など、交流を図らなければならない。
それはもちろん、将来の后妃を目指す女性たちが平等であることを意味する。
彼女たちに不満などはない。自分の嗜好を調べ抜かれた菓子の数々。それは紅茶の温度から銘柄まで管理され、彼女たちの配慮の元、最高のタイミングで出される。侍女たちの手によって。
ビターは、皇帝である。それは24時間変わらない。しかし、自分の妻と茶を嗜む時くらい、彼はただのビター・ドリップとして過ごしたいと思っている。
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