第25話

ビターの口に入るものはもちろん、厳選された高級にして至高の一品ばかりだ。そしてそれは美味しさだけではなく、安全性もぴか一であるということ。




次期皇帝の口に入るものに毒でも入っていれば、一体何人の家来の首が飛ぶか。



それは地位の高さに比例して、犯人だけではすまない巨大な問題である。




ケーキ一つにしてもそれだけの人間たちの命がかかっている。故に次期皇帝となるビターは、それを出され、軽々しく口にすることは許されない。



それがケーキであるとしても、多数の人間たちが自分の甘味一つで人生を賭けている。それを分かっているからこそ厳格に、粛々と食さなければならないのだ。




ミルあたりがそれを聞けば、なんてお堅いバカだと悪態をつくかもしれない。死を経験することのない神だからこその発言だろう。



しかし、その生真面目さが今のビターを作り、名君と言われる所以でもあるのだ。



臣下を大切に思い、妻を大事にし、厳格に国を統率する。まさにビターは、皇帝になるために生まれてきた人間なのだ。




「陛下、嬉しゅうございます。ありがとうございます。」


「うむ。」



そしてそんな男をこうしてメロメロにしているのが、温度小町。未来の妻なのだ。

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