第23話

「小町が戸惑っておろう。控えよ。」


「も、もうしわけございません!」




侍女たちの威圧に困っていた小町の様子に気付いたのか、ビターの厳格な声が室内に届いた。



マカロンを手に小町に近づいていた侍女は尋常でないほど体が震えており、小町は彼女に心底同情した。




(連れて来たのは自分のくせに。本分を全うしようとしている人に矛盾を押し付けているのにも気づかないなんて。)



皇帝とは、生まれながらに崇高な存在である。この世界では、彼が黒を白と言えば白になり、犬を猫と言えばそれが本当になってしまう。



それで通る世界も知りながら、現実的な世界である前世も過ごしている今の小町にとっては、皇帝のありようが滑稽であり異質なものに見えてしまうのは仕方のないことだった。




皇帝が侍女に視線をやっている間、温度の低い目を一瞬だけ向けていた小町は、次にはそんなことなどおくびにも出さずに優雅に微笑んだ。




「陛下、本日はどうされました?」


「ん?ああ。」




一瞬、何かを考えるようなそぶりを見せたビターだったが、思い直したかのように優雅に笑う。



絶世の美形であるビターが微笑めば、この場にまるで花が咲いたようだ。



侍女たちはおろか、料理人の男も、そして先ほどまで過剰なほど怯えていた侍女までも我を忘れてその美しい笑顔を呆けた表情で見つめていた。

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