第12話

「ところでバイセン。何か用があってここに来たのではないの?」


「え?あ、もうしわけございません。そうでありました。」




頭を深々と下げたバイセンを前に、優雅に座る小町は目を細めて首を横に振った。



それがバイセンに見えているわけではないが、バイセンの主人である小町が、そこまで心を砕きアピールする必要などない。



なにせこの世界では、貴族と平民、そしてそれよりも下の人間たち、そして獣と人の間に位置する亜人あじんと、すべては階級によって支配されている。


そして、魔物と呼ばれる人ならざる奴らなどは、もはや市民権などあるはずもなく、すべてが討伐対象である。


この世界では、人こそが至上の生物。


もちろん小町は皇帝を除けば最上級に位置する貴族の娘であり、平民出身のバイセンにとってはまさに雲の上の人、なのである。




しかし。バイセンは急に顔を上げると、自分をまっすぐに見る小町を見つめ返した。



その顔は笑顔であるのに、目は笑っていない。その迫力に気圧された小町の鉄壁の微笑みが、初めて崩れた。




小町は悟ったのだ。



『これは、説教だ。』と。


貴族の娘が、平民出の侍女を恐れたのだ。



故に、小町はとっさの機転を利かせた。



瞬時に、ミルを売ることにしたのである。




「ミル。あなた、使用人の定例会議、いい加減出たらどうかしら。」


「……ん?」



聞き間違いか?とばかりにミルが思わず素を見せる。振り返った小町は、素が出てるよ!と目で訴えかけた。

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