第11話
小町の足先辺りにあるそれ。中央のテーブルの下にあり、手前のソファーの後ろに立っているバイセンからは辛うじて見えないその位置。
もし今バイセンが一歩後ろへ引けば、バッチリ見えるだろうそれには、こう書いてあった。
【あたり屋くん】
それは、小町が一度転生し、18まで過ごした別世界の食べ物である。
パッケージを開けるとスルメ独特の芳醇な香りが室内に広がることだろう。ワンシートに引き伸ばしてあるそれは、食べやすさを重視して最高の形に形成されている。
食にかなりのこだわりのある世界であったそこは、小町としては何気ない日常の一部であった。
しかし、″二度目″の転生で戻ったこの世界には、当たり前にそれはなく、食だけでなくとも医療から生活に至るまで、あらゆる面であの世界には劣っている。
靴先でどうにかあたり屋くんを引き戻した小町。一切乱れることのない美しい笑顔に一瞬だけ喜色が点る。それを読んだ2人の侍女。
1人は共にあたり屋くんの生還を祝い、もう1人は小町と自分ではない侍女との自分の知らない意思疏通を勘ぐって嫉妬の炎を燃やした。
小町は足の下にあるあたり屋くんを器用に自分の座っている椅子の下へと蹴飛ばす。そうすれば自分の着ているこのドレスで隠れ、もうバイセンの目に届くことはないだろうと考えて。
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