第9話

いつの間にか主人の隣にいたこのミルという侍女は、侍女長である自分よりも地位が上である。



役職名などはない。ただ、温度家の娘である小町を常に支えるためにいること、それが彼女の仕事であることは分かっていた。



12で小町家へ奉公することになってから、もう何年の月日が経っただろうか?




その頃まだ生まれてもいなかった小町の父親が立派に家を継ぎ妻を娶った。やがて長男が誕生し、そしてこの、小町が生まれた。




その間にも自分はというと、温度家の侍女として恥ずべきことがないよう、努力し勤めてきた。



その間に何十年もの月日が流れ、自分は侍女長となった。雇い主であるとはいえ、温度家の家族にも時には苦言を言うこともあるが、それほどの信頼関係を結べていると自負している。




そしてこの小町が皇帝陛下の后候補として城へ送られることになり、自分が小町付きの大任を任された時、見に余るほどの大きな責任を感じると共に、嬉しさも込み上げたもの。




自分が、小町様を支える。そして、后妃となった彼女をまた、支えるのも自分であるのだと。バイセンはそんな未来を当たり前のように思い描いていた。




それが、どうだろうか?




目の前にあるのは、自分とは違う者と、小町の信頼関係。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る