第49話

可哀そう?可哀そうってなに?



手元のうどんに視線を落せば、自分が握っている箸が小さく震えているのが分かった。



一花の可哀そうという言葉の意味を考える。でもどれだけ考えても分からない。



夏休みに泊りがけでどこかに行く予定はないけど、クラスの友達と出かける予定はある。なにより特進ほどじゃないけど進学コースも夏期講習があるし、予備校の夏期講習もあってそれなりに忙しい。今年は一花のご両親が亡くなったということで家族旅行はやめておこうというお父さんの提案で家族旅行はないけど、日帰りでどこかへ行こうって一花とお母さんが話していた。私の人生は平凡かもしれない。けど毎日楽しみにしていることもあるし、いつもそばで見守ってくれている家族や律もいる。私は、不幸なんかじゃない。なのに。



可哀そう、可哀そう?なんで?



……私って、可哀そうなの?



ゆっくりと、雨音が聞こえてくる。やがてそれはザアザアと本降りになって、ゆっくりと水位を上げていく。口、鼻と水かさが増していって、やがて私は息ができなくなって。



すると、私の手の上に大きな手が乗る。見上げると律が微笑んでいた。それはもう、可愛らしく、無邪気な笑顔で。だけど目はまったく笑っていなくて。いや、それどころか悪意すら感じるような。



そう思った瞬間、はぁ、と吐息が漏れる。ギリギリの所で息ができたことに、安堵のため息を吐いた。




律は私の手をギュっと握ると、目を上げる。その笑顔に一花の友達の女の子たちが色めきたつ。顔だけはいいもんね、顔だけは。

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