第44話

「あ、美音ちゃん!こっちこっち!」




まるでモーゼの十戒のように割れた人垣の奥で、一花がキラキラした笑顔で大声を挙げる。彼女の隣にはもちろん健介。そして彼女を挟んで健介の反対側にはスマホを見ながらこちらをチラリともしない黒髪ボブの女の子がいる。そして対面した反対側には毛先がクルンとした茶髪で一花みたいな可愛い系の女の子と黒髪のロングの美人系女子がなにやら楽しそうに話しながら座っていた。



6人かけの席に5人。一花側の人数はどうやら定員いっぱい振り切れているらしい。おかしい。聞いてた人数より多い。



「あれ?美音ちゃん2人できたの?」



まるで私が1人で来るのが当たり前かのようなその質問に内心、『私はそちらがまさか5人とは思いませんで。』と毒づく。



「うん。いつもお昼は律と食べてるから。」


「でも、律くんはちょっと人数に入れられないかもしれないから。」



…なんの?とは恐ろしくて聞けない。一花の言う相談がなにかは分からないけど、どう考えても席のあまりの話じゃなさそうだから。



「だいじょぶだいじょぶ。僕は椅子借りるし。みおん、うどん持ってて。」


「あ、うん。」



そこは律。強引に私へうどん2つが乗ったトレーを押し付けると、得意の子犬ちゃんスマイルで近くに座っていた女の子に椅子を貰っていいか聞く。

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