第35話

1週間前までは確かに、そうだったのに、な。




「でね、私言ったんです。そんなことしたら怒るよって。そうしたら健介、なんて言ったと思います?」


「さぁ、よく分からないけれど…一花ちゃんと彼氏君が喧嘩するほど仲が良いってことは分かるな。」


「お、おばさん!そんなことじゃなくて!」


「ふふっ、照れちゃって!」


「うううー。」




助手席の一花とお母さんが楽しそうにおしゃべりしている後ろで、私はスマホを見て時間を潰す。



私よりハードな授業を受けているとは到底思えない一花は、疲れを一切感じさせることなく、お母さんに嬉しそうに話しかけている。



それを運転しながら聞くお母さんの表情は前からじゃ見えにくいけど、夜の光の加減でフロントガラスの内側にちらほら写るそれを見るに、とても楽しそうだった。




一花が同居し始めて1ヶ月。私の生活は明らかに様変わりしていた。



まず、一花も私と同じ予備校に通うことになった。



山田のおじさんたちの遺産は一花が将来使うように残しておくことにして、成人するまでの当面の費用はうちが出すことにしたらしい。

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