第33話

「だったらなんだってんだよ。」


「っっ、別に。あ、もう席に戻るわ。美音、ほんとありがとな。じゃ。」




律の剣幕に引いたのか、嫌そうな表情ながらも健介は慌てて席に戻っていく。



「そんなに怒らなくてもいいのに。口悪いよ?」


「うるさい。」



律の怒った時の癖。うるさいって顔を背けちゃうの。もうこれ以上は話したくないとばかりに、子供みたいに。



そしてそっぽを向いたまま、”言い訳”するの。




「みおんのこともよく考えないで、まるでみおんが悪者みたいなあの女の意見を鵜呑みにしやがって。しかもなんだよあの保護者ぶった言い方。ムカつく。」




ほらね。



窓の外を見る律の後頭部を見て、ようやく息ができた気がした。




「ありがと、律。」


「うるさい。」


「ふふっ、ごめんごめん。」



これ以上は、照れ屋の律に悪いから。機嫌良く快晴の空を見て目を細めた。



私は、不幸じゃない。こうやって息をさせてくれる律もいるんだから。



これからは、家に帰ったら”少々”騒がしいんだろうけど、私は大丈夫。この時はまだ、そう思っていたんだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る