第30話

「一花を受け入れてくれて、ありがとう。」


「っっ。」




とろけるような笑顔ってこういうことを言うんだと思う。まるで砂糖菓子を口に含んでいるかのような甘ったるい笑顔は、彼が大好きな彼女のことを考えているからなんだろう。



ヒュッと喉が鳴る。また、呼吸が苦しくなった。



私の耳を打つのは、雨の音。今日は快晴なはずなのに、本当に不思議。




「ずっと落ち込んでいたんだ。寂しいって泣いてた。俺は時間の許す限りは一緒にいられるけど、さすがにずっとは無理だから。」




ペラペラと最愛の彼女のことを惚気る彼はきっと、私のひきつった笑顔にも気づいてはくれないんだろうな。



「だけど、美音なら大丈夫だよな。一花はなぜか受け入れられないかもって言ってたけど、そんなことあるわけないし。」




人と人との関係は、付き合った年月が重要なんだと思ってた。



私と一花も長い付き合いだけど、私と健介もまた、長い付き合いだ。交差することのない私たち3人の関係だったけど、一瞬、あの一瞬だけで、すべての関係が無駄になるほど、強く惹かれ合ってしまうなんて。



恋ってなんて、残酷なんだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る