第5話

それなのになんで、私は今、息苦しいのだろう。




先日、幼馴染みであり、親友である山田 一花やまだ いちかの両親が事故で亡くなった。



大好きな両親を一夜にして失った一花の憔悴ぶりは激しく、私も一緒になって泣いた。今日だって彼女は、誰もいない家で一人悲しみに暮れ、学校に来れていない。



そんな親友を差し置いて今、朝両親から話があると言われたくらいで豪雨を理由に帰りたがらない私は、贅沢者でしかないんだろう。




もう一度窓を見れば、あり得ないほどの強さの雨が窓を打っている。鞄の中の折り畳み傘をもってしてもびしょびしょになりそうなほどだ。



それでも帰ればいい。制服の洗い変えは家にあるし、お母さんがきっと今、すぐにお風呂に入れるようにしてくれているはず。



びしょ濡れになろうが家に帰りさえすれば、温かいお風呂と清潔なタオルが待っているのだから。



それでもなぜか、足が動かない。言いようのない嫌な予感のせいで、まったく足がうごいてはくれないのだ。



だけど、それを急かすように、マナーモードにしているスマホが着信を知らせた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る