第57話
王も突然の彼の強行に呆れかえったが、騎士団の現状を放置していたのも事実。しかも、彼の代わりとして現地に残っているイーサンがなんの支障もなく騎士団を指揮していたことからも、結局、王命に背いたとして罰金を科したくらいで彼の引退を認めてしまった。
そこで驚き、怒りの声を挙げたのがこの問題を放置していた中央の高位貴族たちだ。
今騎士団は伯爵令息に過ぎないイーサンが指揮をしており、侯爵以上の上級貴族はいない。それは上級貴族への侮蔑にほかならず、早く彼らを指揮するに値する者を送るべきだ。
これまで辺境の問題であると放置していた問題を彼らは、退屈な日常に現れた暇つぶしだとばかりに騒ぎ出した。そしてそれを率先して先導していたのが宰相である。
しかし結局、その直後にイーサンを殺戮兵器と言わしめた戦争が起こり、その功績のおかげで、結局王はイーサンを正式な騎士団長として任命し、今に至る。だからいまだに騎士団を上級貴族が指揮すべしと謳っている宰相にとっては、実力で名を挙げたとはいえ今は騎士爵に過ぎないイーサンが騎士団を指揮していることは耐えがたい屈辱なのだ。
その上、彼は団長として申し分ない才能を発揮し、部下からも恐れられながらも慕われている。しかも、トドメとばかりの此度のエラ・グランヴィル公爵令嬢との縁談は、彼が中央に野心を抱いているのではないかという彼の考えをほぼ肯定するような出来事だった。
実際、イーサンにはまったくそのつもりはないのだが、宰相はそう考え勝手に疎んじていた。だから、まだ王がこの場に来ていないとはいえ、これだけの敵意を公の場で示しているのだ。お前のような者がこの華やかな場所を望むとは烏滸がましいとばかりに。それに、宰相はエラのことも気に入らなかった。
宰相はその聡さでエラが王子たちと婚姻を結ぶ気がないことに気付いていた。しかしエラは高位貴族の、しかも公爵の娘だ。上級貴族の夫を持つのは必然。それに、女の分際で政治に口を出すほど聡明なのだから、最終的には自分の息子の妻として嫁してくると思っていた。そんな彼の展望を覆したのは、他でもないエラ本人だった。
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