騎士とは命を賭けるもの

第55話

「身分も低い若造が、良い婚約者に恵まれたものだ。しかし彼女は所詮公爵家を継がぬ身。生意気にも政治にまで口を出しているようだが、所詮騎士爵程度の妻としてくすぶることになるだろう。ああ、お前が死ねばどこかの爵位だけは高い訳ありの後妻にはなれるだろうな。なんせ顔だけは良い。」



ある日イーサンは王に呼ばれた謁見の間で、この国の宰相であるポール・エディバルト侯爵に突然罵られた。


突然婚約者を口汚く罵られたことでイーサンの背負うオーラはどす黒く鋭利な刃物のように変質したが、彼が普段から背負うそれと大して変わらないと受け取られたらしく、宰相は皮肉げに歪められた口を閉じることはない。



「なんだその目は。たかが運が良かっただけの成り上がりが偉そうな態度を。」


「…申し訳ありません。」



膝をつき、丁寧に頭を下げるイーサンに、宰相は侮蔑の視線を落とす。彼がそう言うには、ちゃんとした理由がある。



本来、国の騎士団長を務める者は侯爵以上の身分であることが絶対的に多い。



貴族社会とは爵位でものが決まる世界であり、それは軍役に属する者たちも例外はないからだ。



この国の軍部は、近衛騎士団と騎士団に分かれており、近衛騎士団は高位貴族の令息たちが、騎士団には高位もしくは低位貴族の貴族たちが所属している。

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