第54話

些末なことから有名なことまで。自分のエピソードを交え彼女たちの心を掌握していくエラはまさに、この場で最も注目されている令嬢だった。



それに、エラと同じく婚約者や家族に贈られた”値段ではなく心のこもっている贈り物”を身に着けている令嬢は意外と多く、数はそうでもないにしろその筆頭がエラであることにより、羨ましそうに見る令嬢が目立った。



結局、この場ではエラが独壇場。先ほどまでエラやイーサンを口撃していた者たちは気まずそうに視線を逸らし、今は何食わぬ顔でエラたちの会話に聞き耳を立てている。所詮貴族の他人へのあからさまな悪口などその程度のものなのだ。


先ほどまで悪しざまに罵っていた相手をものの数分で手の平を返し褒めそやす。そこに不快感を示せば狭量であると被害者側が罵られ、また悪評を流される種とされてしまうのだ。



上っ面だけの世界。見栄と虚無の世界。それが貴族社会だ。しかし、そんな中でも虚勢を張り、しっかりと前を見て生きていかなければならない。貴族とはこの国の経済をささえ、政治を支える者たち。いくら言動が馬鹿に見えようとも、本質は恐ろしく狡猾で残忍だ。


貴族でなくなるということは国を憂うことすらできないということ。貴族とは力の象徴であり、身を守ることができ、国を支え、平民では絶対的に成しえないことができる者たちだ。


それに、どうせ口撃などという馬鹿のお遊びをするような者たちなど着飾り、世論、つまり高位貴族にすり寄るしか能のない者たちばかりだ。本当に怖いのは。



「皆様、今度グランヴィル公爵家主催のお茶会を開きますの。恐れ多くも王太子様方も参加していただけると了承を得ておりますわ。よろしかったら招待状をお送りいたしますので是非いらして。」



イーサンの婚約者であるエラ・グランヴィルは、貴族の中でも絶対的な地位を確立していた。家は高位貴族。彼女自身も大きな商会を持つ資産家であり、政治のことでも王自らが招集をかけることがあるほど。そして彼女は、淑女として、社交界でも絶対的な地位を確立している。



そんな彼女を口撃せず彼女主催の招待状を獲得した者と、口撃し、チャンスを逃がした者たち。つかみ取った者たちには栄光が。そして、逃した者たちにはこの場で制裁を加える以上の不利益が降りかかるだろうことは、この場の誰もが分かっていた。

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