第51話

「似合いますか?」


「ああ。」



思わず間髪入れずそう答えていた。愛想もなにもないただの返事だが、エラは嬉しそうに目を細める。王族を除けばこの国の貴族で一番地位のある家の娘であるというのに、平民の作ったアクセサリーを喜ぶその姿はまるで彼女を聖母のように輝かせていた。



イーサンはもちろん、このアクセサリーが普段使いでしか使えないことを分かっている。いくら公爵令嬢であろうとも、社交の世界でこんなものを着けていれば侮られるであろうことは容易に想像がつくからだ。王都の貴族社会とは、見栄の世界である。特に令嬢たちは着飾り最上級のものを身に着けることを至上と考えており、他の令嬢よりも自分が上にいなければ気が済まない。



戦場と同じくらい王宮で過ごしてきたイーサンにとってそれは常識であり、それはイーサンだけの常識であるはずもなかった。



で、あるのに。



「え、エラ嬢。それはどうされたのですか?」


「あ、これですか?イーサン様と下町をデートしていた時に買っていただきましたの!」




エラが招かれたあるパーティーで婚約者としてエスコートしたその日、エラは豪華絢爛な流行のドレスを身に着け、それに合うブレスレットも着けていたにも関わらず、イーサンがプレゼントしたあの平民のブレスレットも一緒に着けてきたのだ。



自慢気に他の令嬢に見せるそれは、豪華なダイヤのあしらわれたブレスレットの隣で静かに鎮座していた。ただ、あの時露店で見たみすぼらしさは感じず、なぜかエラが着けているというだけでこってりとした豪華な宝石を際立たせるためのアクセントにすら見えてくる。しかしそれにしてもさすがに場違いなそれに、質問した令嬢も戸惑っている様子だった。

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