第49話

『うふふ。少々最後のあがきがしつこいだけですのよ。ご心配なく。』




すぐに排除します。そう彼女が小声で続けたのは、聞き間違いではないだろう。



「イーサン様、どうされました?」


「…いや、別に。」



洒落た言葉も返せない自分に、こうして甘く笑いかけてくれるのはこの奇特な女性だけだろう。エラは公衆の面前、平民が見る中それを歯牙にもかけず自分の額に手を当てる。今にもキスをできそうなほどの距離で顔色を伺い、問題ないと判断すると安堵し嬉しそうに眼を細める。



キラキラ輝くエメラルドグリーンはまっすぐに自分を見ていて、愛おしいとひたすらに語り掛けていた。



イーサンは、エラがただの深淵の美女ではないことに気付いていた。時折見せる表情や言葉、しぐさで、彼女がただの令嬢ではないことが分かる。しかし、それを追求することもなければ、嫌に思うこともない。



自分も、仕事の面ではエラに見せられない面はある。殺戮兵器というあだ名は自分の容姿だけのせいでついたあだ名ではないことを承知していたからだ。



お互い様だから、という諦めもあれば、どんな彼女の【顔】を発見できるのか、楽しみでもあった。容姿も当たり前に好みでもあるし、彼女ほどではないにしろ、イーサンは初めて、異性に恋という感情を感じている。そしてさらに楽しませてくれる彼女の面白さはやはり他の令嬢にはないものだ。



噂と異名、見た目で自分を判断する女性に、イーサンは辟易していた。もちろん、女性に対して柔らかい物腰で接することができない自分にも非はあるが、結局女は上辺しかものを見ないのかと半分絶望に近い失望があった。


しかし、エラという面白い女性はそんなイーサンの女性に対する常識を軽くぶち破ってくれたのだ。

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