第48話

結局、自分の実家への挨拶は大成功と言ってもおかしくはないほど滞りなく行われた。特に弟妹はエラにすぐ懐き、日帰りの予定が泊まりとなるほどの引き留め具合だったほど。



婚約者とはいえいまだ未婚であるエラを自分の邸宅である離れに泊まらせるわけにいかず、にぎやかな本家を背に自分だけ帰る時など物悲しく感じてしまったほどに、久しぶりにグレイ家に笑顔が戻った日でもあった。


しかもエラは翌朝、わざわざ使用人にイーサンが起きているか伺いをたてさせた後、きちんと侍女と護衛付きで朝食を伴ってやってきた。



自分以外がいないためいつも物音ひとつしない自分の邸宅にエラがいるだけでなぜか華やいだように見えるのが、イーサンには不思議で仕方がなかった。それに、エラがいつも連れているベラという侍女とスカイラーという騎士は自分を見ても特段怖がる様子は見せない。まったく会話はないがほぼ4人で行動しているようなものである彼らとの毎日は、イーサンを不思議な気持ちにさせた。



それが、寂しさから解放された高揚感であることを、イーサンは気付けない。しかし、この浮ついたようなフワフワした気持ちは悪くない、そう思った。



そして肝心のグランヴィル家への訪問は、というと。


特に語ることはない。



婚約のことを語るエラは周りに花が見えるほど愛らしく、まるで俳優のように壮大に語っていたが、グランヴィル公爵とソフィア公爵夫人はまるで【報告】を聞くかのように淡々と静かに受け止めていた。長男エイダンは王都の貴族学校にいるため不在であり、両親とエラとのテンションのギャップを除けばグランヴィル公爵家との対面は円滑に進められたと言っていいだろう。ただ、少しだけ軍部の報告と似ているなと感じた。



その後、両家の顔合わせを控えた2人はまずは自分たちの親交を深めるべきだというエラの提案をイーサンが飲んだ形でデートを重ねることになった。本来ならば両家顔合わせが済んでからの婚約となるはずなのだが、なぜかそれが実現しない。エラが言うには、グランヴィル公爵がとても忙しく、両家で会えるのはまだまだ先になりそうなので特別に婚約を先に済ますということだった。



それはグランヴィル公爵が暗に反対しているからではないのかと思わなくもなかったが、エラの態度からそうではないようだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る