第47話

「…あなたが、あのエラ・グランヴィル公爵令嬢か。」


「お初にお目にかかります。エラ・グランヴィルでございます。これから親子となるのです。エラ、と呼び捨てにしてくださってかまいませんわ。」




家族にご挨拶をということで、エラはイーサンの実家、グレイ伯爵家へ招かれていた。両家の両親顔合わせはまずエラがイーサンの両親に挨拶をしたあとということで、あの日王の承認を得たあとすぐに約束を取り付けたのだ。



イーサンは決して行動が鈍いわけでもなく、礼儀作法も知らない野蛮人でもない。しかし、戦場で発揮される非凡な才能は、平和な王都で使えるはずもなく、生活のほとんどを鍛錬や戦術を学ぶことに使う彼にとって社交とは煩わしいものでしかなかった。そんな中で、強いて言えば社交の世界でこそその存在を強く認識されているエラをなにがどうなったのかイーサンの伴侶として迎え入れる幸運を手に入れた。



彼女はイーサンが何もせずとも、どう考えても2人の結婚を快く思っていない王の許可を取り付け、周りの貴族たちの好奇の視線にも気圧されることなく、いつの間にかイーサンの家族との約束も取り付けていた。


あれよあれよと目の前で進んでいく時間を見つめながら、いまだ夢見心地なままのイーサンは置いてきぼりを食らっている気分になった。しかしそれも一瞬、自分でも情けないのだが、”少々寂しい”と彼が認識した時には必ず、『あなたは私にとって大事な人なのよ。』と聖母が語り掛けるように、エラは自分の居場所を自覚させてくる。



それは様々な方法だ。ただの会話の合間の視線の合致であったり、さりげなく自分の手にかぶされた透き通るような白磁の手であったり。その中でも彼の鼓動を激しく脈打たせたのは、『お慕いしております。』という、シンプルな愛の告白だった。


まるで自分が婚約したかのように顔を真っ赤にし、のぼせ上がるグレイ伯爵に、エラは息子、イーサンへの想いを吐露する。それは決してわざと吐き出された打算的な言葉ではなく、イーサンの弟や妹も思わず赤面してしまうほどの無邪気な告白だった。




グレイ家でのエラとイーサンの家族との対面は始終エラによって支配され、ひたすらに強面の息子、イーサンへの愛を綴られていたことで、いつもはイーサンがいるだけで悪い空気となる身慣れた居間がキラキラと輝いて見えた。

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