ライバルは、必ずしも主人公を脅かすとは限らない

第46話

「なにがあったんだ?」


「さぁ?どうされたのでしょうか?」



イーサンは自身の隣で首を傾げる美女を思わず見た。目が合ったその人はとろけるように甘い笑顔を見せ、言葉にせずとも自分に好意を伝えてくる。そのストレートすぎる彼女の様子に、イーサンはそれ以上追及することなく思考を停止させた。



先ほど、突然絡んで来たゾフィア・ミッター辺境伯令嬢が声なき悲鳴を挙げ、用事を思い出したと慌てて帰っていった。表情は嫌悪感いっぱいといった感じに取り繕っていたが、イーサンには分かる。彼女は明らかにエラに怯えを見せていた。自分が怯えられるのは分かる。しかしミッター嬢は自分ではなくエラに怯えていた・・・・・・・・・・・・・・。そんな馬鹿なと思う反面、納得する自分もいる。



「イーサン様、お慕いしております。」


「っっ、わ、お、俺、私も、だ。」


「ふふっ。嬉しゅうございますわ。」



エラの可愛い声が鼓膜を揺すり、彼女の柔らかな手が自分の武骨な手を包み込む。その温もりに意識は支配され、頭の中はエラのことでいっぱいだ。甘い香りは自分を官能の世界へと誘い、これまで女などいなくとも済んでいたはずの人生が煩悩の化身と化す。



エラの存在はまるで麻薬のようで、危険で依存性が高い。エラといるだけで彼女のことしか考えられず、少しの疑問など些事に感じてしまう。それではだめだと思っているのに、頭が考えることを拒否する。まるで、盲目的にエラを愛せと命令してくるようだ。



そんな情けない自分であるのに、エラは尊大な態度など取らず、常に自分を立ててくれる。こうして愛の言葉もろくに囁けない朴念仁な自分を、嬉しそうに、愛おしそうに見つめてくれるのだ。



あの時もそうだったとイーサンは思い出す。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る