第44話
「ところで、ミッター辺境伯令嬢。」
「な、なによっ。」
おっとりしたエラの問いかけにゾフィアは警戒を崩さず返事をする。エラは常に優しく人に嫌な態度を取ったのを見たことがない、聖女のような女性であると言われているが、ゾフィアは信じていなかった。
(この女、絶対になにかあるわ。)
自分がのし上がるために他の令嬢を策略で陥れるのは社交界の中の上に行けばいくほど当たり前のこととなる。世の中希望や優しさではやっていけない。特に政治の中枢、権力が集まる王族の周りには、純粋無垢な”キレイな女性”など存在しないのだ。そんな中で人気の面で言えば王妃や太后を押さえ、今やこの国の頂点にいると言ってよいエラ・グランヴィル公爵令嬢。
彼女が着たドレスは必ず社交界一の流行となり、彼女に近づこうと年齢に関わらず貴族たちが列を成す。あの国王でさえも彼女の顔色を伺い、時には公務のことで相談することもあるという。そんな彼女を面白くないと思う者がいないはずはない。それなのになぜか、その声は大きくなる前に沈静化してしまう。
エラ・グランヴィルに悪意を持って近づいた者が、いつの間にかいなくなっているからだ。
人々は言う。きっと彼女の素晴らしさに気付いて改心したのよ。思いとどまったのかもしれないわ、と。そんなわけがない。ゾフィアは鼻で笑う。あの女は何もかもが完璧すぎて胡散臭いことこの上ない。自分と同じ考えの者は大勢いるだろうし、それを排除しようとする動きは当たり前に起こることだ。
それなのにエラは、常にそこにい続けている。その異様さに気付いているのは唯一、彼女と対等に渡り合える自分だけ。
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