第41話

自分の積年のライバルであり、唯一身分だけが勝っているエラが騎士爵風情のイーサン・グレイなどと婚約するなど。しかも王立ち合いの元関係は結ばれ、まるで平民のように逢瀬を重ねているなど、平民共の噂話としても全く笑えない。



それでも、次々とエラとイーサンの目撃情報はゾフィアの元へ届けられ、最近の社交界でもその話で持ちきりである。


認めたくない事実を認めざるを得ないというこの状況に、ついにゾフィアは自ら動いた。




自分の手の者を方々に差し向け、エラとイーサンが今日、市街に出かけるという情報を手に入れ、偶然を装って2人が想い合っているのが事実かどうか見極めてやろうと思ったのだ。



平民に人気という汚らしいカフェに入る気もせず、店先で彼らが来るのを馬車の中で待った。平民街のカフェの前、堂々と停められた豪奢な馬車に気付かない者はいなかったが、貴族に関わるとろくなことにならない、ということは平民の中では周知の事実だったので、存在は見逃されていた。ただ、何も知らない一部の幼い子供たちに木の枝でつつかれるなどのちょっかいはかけられていたのだが、カフェを鬼の形相で見つめるゾフィアと彼女に付き合うのにいい加減うんざりしていた御者はそれらに気付くことなく、ただ時間が過ぎていったのだ。



この国一の美貌を誇るエラと周りを見るだけで恐怖させる見た目のイーサン、というある意味凸凹なカップルは、すぐに分かった。平民の装いをしていようが、身を包む2人から溢れ出る威厳は隠せるわけもなく、明らかな貴族のお忍びデートとバレていた2人は平民たちに遠巻きに見られながらも幸せそうに逢瀬を満喫していた。



2人を見つめるゾフィアの視線は鋭く、そして憎悪に彩られる。



エラは自分としのぎを削り、良きライバルでいてもらわないといけない。常に自分に蹴落とされ、胸を張れるのは身分だけ。そして最後には自分が王太子妃となり、あの女が膝をついて頭を垂れるのを見る。最後には誇っていた身分差も自分が王太子妃となることでひっくり返り、徹底的に打ち負かすことで自分は満足するのだ。

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