第40話

そして学園を卒業し、自分もエマも王太子殿下の婚約者候補として城に上がるようになった。定期的に行われる王太子殿下主催のお茶会や、知識を確認するための講義で会うたび、ゾフィアはやはりこの女は気に食わない、そう認識させられることになる。



王太子はもちろん、側近や侍従に至るまで、王城の彼らの視線は常にエラにあった。自分を含め他にも婚約者候補がいるというのに、まるで初めからエラに決まっているかのように、彼らはエマに夢中で、彼女だけを優遇していた。



ゾフィアも必死に対抗し、お茶会の時には必ず王太子殿下の喜びそうなものをプレゼントしていたし、侍女や執事への賄賂という根回しもしていて、当日には自分のアピールは欠かさなかった。どれだけ彼らがエラを優遇しようとも、最後には気遣いのできる、努力している自分が選ばれる。そう信じていた。




そんな時突然、父親である辺境伯から衝撃の事実を聞かされた。



『グランヴィル公爵令嬢が、騎士団長のイーサン・グレイ卿と婚約なさったそうだ。』



あり得ない。そう思った。



イーサン・グレイ卿といえば、【殺戮兵器】という恐ろしいあだ名がついた不細工な男だ。しかも戦争での功績を認められ、騎士爵を賜ったとはいえ、伯爵位を継ぐこともしない、貴族としては最下層に位置する身分の者。それが、自分が唯一身分というカテゴリーで勝てないこの国の貴族のトップに位置する公爵家と婚約を結ぶなど。そんなことはいくら王が認めたとしても高位貴族たちが許さないだろう。



身分制度とは、この国の根底を支えるものであり、高位貴族とは王族の次に尊い存在。だから高位貴族が、同じ高位貴族か王族と婚姻を結ぶのは当然。騎士爵はもちろん、男爵、子爵などの低位貴族たちは卑しき平民と変わらぬ存在であり、そんな彼らが我々と縁を結ぼうと望むなど、不敬以外の何物でもないのだ。

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