第39話

「あなた、王太子殿下の婚約者候補を辞退したと聞いていたけれど。ふぅん?」



扇子越しに不機嫌そうに眉根を寄せるゾフィアはエラを完全無視でイーサンを頭の先からつま先まで、値踏みするように見た。そんな彼女の不躾な視線にエラは一瞬眉根を寄せたが、すぐに完璧な笑みの奥に隠し、ゾフィアを見つめる。


肝心のゾフィアに見られているイーサンはというと、相変わらずの険しい表情でどこか遠くを見つめているだけだ。



「我が国の王太子殿下を無礼にも無下にして選んだ殿方と聞いておりましたけれど。この様子じゃこの方じゃありませんでしたのね。この方は?どうやら最近お遊びがお好きというのは、色々な殿方と、という意味だったのかしら?」



あまりにも無礼な言い草にも関わらず、エラは顔色一つ変えずまっすぐにゾフィアを見つめている。



(嫌味をぶつけてやったのに顔色一つ変えないなんて。気味の悪い女。)



罵った方であるゾフィアの方が不快感に顔を歪める。いつもこうなのだ。まだ自分たちが学生の頃、成績や淑女としての格を競い合っていた頃から、エラは生意気にも自分を見下し、馬鹿にしてきた。



彼女が好きだという男がいれば寝取ってやったし、成績も、友人の数も負けないように努力した。でも結局、彼女が好きだという男はすぐに自分に乗り換えたが、別にエラも彼を好きで相手をしていたわけじゃないし、成績は最後まで彼女に及ばなかった。友人の数は自分の方が多かったが、金で釣った男爵や子爵家の娘たちで数を増やしていたにすぎない。



結局は、ゾフィアの独り相撲。彼女の努力を前にエラは今のように感情一つ読み取れない完璧な淑女の笑顔で自分を見下していたにすぎない。

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